蔡:(つつがなく……。
目的の場所へ移動しおえたことを、あたりを見回して、認識した。
小さく皮肉っぽく笑ったのは、苦労して出た場所なのに、
戻るのにはあまりにたやすかったからだろう。
しかし、その場所も、今は活発なその活動ゆえか、
まばゆく白く発光している……!)
なんてことだ……黒猿と融合したんだな。
いまや、ここはあれの腹の中か?
この叡智の粋に対して、なんてことしてくれる。
まったく、笑えない冗談だよ……!
(まだ、鳴蛇やヨハネはここまで来ていないらしい。
あたりの壁を「読んで」蔡、唇を改めて引き結ぶ。
今の目的は、ここの動きを停止させること。
そして、黒猿を滅し、ヨハネや鳴蛇を助け出さなければならない。
己の作ったものであるからこそ、その巨大さは理解している……
この、いかなる理をも分解して吸収し、力として吐き出す真奥の
システムをいかにして止めるのか。
どのような策があるのか……!
ふと、そこで、鼻腔を甘い肌の匂いで満たされて、
腕に抱いた体に目を細めた。
涼の質量が、熱が、存在が……
いま、心にこれほどまでに迫るのを、不可思議に感じながら)
おい……葛葉の。
……涼?
大丈夫か?
(いつも、「お前」、なぞという呼び名でしか呼んでいなかった。
が、何故か……強く、その名を呼びたいという思いが沸き起こる。
もしかしたら、彼女を「獲った」せいかもしれない。
己の中、心と呼ばれるものがそこにあるとするならば、その場所に、 ぴたりと寄り添うような姿で。
涼の存在が、感じられるのだ……。
息苦しいような思いのなか。
小さく目を細め、細い体を、腕で強く己の体に押し付けた)
蔡: 涼。
………涼。
蔡:(自嘲するように、笑った)
……以前、なぜ、僕がお前にくちづけるのかと聞かれたっけ?
その理由がわからないなんて、まったくもって、
予想どおりの大間抜けだ。呆れかえって言葉もでないよ。
蔡:(涼と目を合わせずに……呟くように言った。
まるで、独り言だ。
その姿は、なにかの呵責から、目をそらそうとしているかに見える。)
お前さ……。
これが終わったら、僕と一緒に、僕の国においで。
しばらくは追手がかかるだろうけれど、心配はない。
蔡家の隠れ家は、無数にある。
僕の国では、誰も僕たちに手出しはできない。
(ふと、声のトーンをあげた)
あぁ……! まァ、イサクたちは、怒るだろうな。
こっち放りっぱなしにして、帰っちゃったらさ。
真奥のシステムを復旧は、僕意外には不可能だろうしね。
イサクはお前を僕が連れ去ったら、それこそ、激怒必至だな。
あいつ、今はまだ、お前がここにいて、取り戻す余地があるからこそ、
僕らの様子を見ているンだから。
でも……勝ち抜けに罪悪感を感じるなんて、
むしろ傲慢ってもんじゃない?
(最後の一言は、冗談の要素もあったらしい。
少しおどけて笑ってみせて、しかし、
涼からのいらえがないのに、目を、少し苦しげに細めた)
……嫌、とはいえないよね。
お前は、僕を選んだんだから。
(たとえ、それがイサクへのあてつけであったとか、
不信であったとか、それ以外のこもごもの……蔡の想像もつかない
ような、思いの末のものであったとしても。
今はこうして、涼は彼の腕の中にいるし、
あまつさえ、彼を救わんとして、隷従の呪まで、完遂させたのだ。
かくて、彼女の意思も魂も、肉体さえも、蔡は己の掌中にしている。
それなのに。
それなのに………!)
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